落日
卒業後こへ滝。
小平太いません。

あの人の話?特に話すことはないが…
そうだな、案外食べ物の好き嫌いが多いかった。
あんなに元気なのに朝が弱いって知った時は少し驚いたのを覚えている。
あと、小動物とか草花が好き。とても慈しむように触れるんだ。意外だろう?
誰からも好かれる、太陽みたいな人だったなぁ…





昨晩、久々に中在家先輩から便りが届いた。
フリーの忍者として次第に名が売れてきたこと、暇を作り学園に赴いて生徒たちの鍛錬を手伝ったこと、最近読んだ本のことが丁寧な字で綴ってあった。
そして毎回のことであるが、最後は 小平太によろしく と小さく添えてあった。中在家先輩らしい細やかな気配りだ。

「先輩、中在家先輩からですよ。この間は立花先輩も寄って下さいましたし、皆さん元気で何よりですね。」

手紙を封に戻して、仏壇に供えた。小さな仏壇には、立花先輩から頂いたあの人が好きだった饅頭もまだ供えてある。早く食べなくては傷んでしまうと分かっているのについ忘れていた。

あの人がこの世を去って、もう2年が経とうとしている。学園を卒業した後、私たちはどこの城にも仕えずフリーの忍者として仕事をしていた。狭いながらも家を持ち、2人で暮らした。満ち足りていて、幸せで、充実していた。
しかし同居を初めて3年が経つ頃、あの人は逝ってしまった。同じ仕事を受けていた仲間から手酷い裏切りを受けて。最後まで生きようともがいていた姿を忘れた日はない。敵味方といったしがらみを振り捨て駆けつけてくれた周りを取り囲む同期の先輩たち。あの人の、本当に瀕死の人間なのかと疑ってしまうほど力強かった最後の抱擁。

勿論、受け入れ難い事だった。食事もとらず睡眠もとらず、死ぬことばかり考えていた。暫く中在家先輩がこの家にいてくれた期間もあった。今でこそ笑顔にもなれるが、暫くは何の表情も無かったと思う。2年という月日で膿んでいた心は大分瘡蓋で覆われて来たものの、剥がせば血が出るし、まだまだ痛む。

「先輩、今晩は、何にしましょうか。…魚の煮付けにしましょうか。」

確かまだ魚が一尾残っていた筈だ。腐らせる前に食べなければ。今晩はそれで済ませよう。あまり腹も空いていない。
そう言えばもうすぐ盆の季節になる、今年も先輩たちを呼んで酒を酌み交わそう。プロの忍として仕事をしていても、一日くらいは昔に返る日があっていいのだ。目には見えないが、あの人も楽しそうにその場にいる筈なのだ。見えなくても、感じることが出来る。

「…先輩、私はずっと、あなたをお慕いしております。これからも。ずっと共に参りましょう。」

ふと呟く。そう、見えなくてもいつでも感じている。自分を守っている気がするのだ。胸の傷は癒えることはないが、自分を取り囲む数々の優しさが、私にはある。あの人の分まで私が色々なものを見て、生きるのだ。それは時に苦痛を伴うが、一人ではない。大丈夫だ。  


窓の外を見ると夕日に照らされた夕顔が光っていた。

『滝、私もだ』

聞こえない筈の声が聞こえた気がして、頬が弛む。仏壇に供えられた封がかさりと揺れた。 





まあ、こんな感じだ。お前が思っているほど憔悴してはいないよ、安心おし。
さて、明日も早いだろう?今日はもうお帰り。
また、先輩に会いに来てくれ。
ではまた近いうちに。

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東京事変の『落日』を聴きながら。
この曲は本当に大好きで、私にとって大切な曲です。綺麗な旋律ですので、是非。
滝は死を完全に受け入れられている訳ではないものの、周りの力も借りて確実に前に進み出している。
人間って儚いけど美しいですね、ってお話を書きたかったんです。
撃沈!!!
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